レイウッド編〈2〉護るために失くしたもの

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 「行ったな……ジェリンは無事だといいな……母上と父上ならば、この月の魔力下で遅れを取ることはないだろうし。  私達は屋敷に戻ろう、レイウッド」  「………………」  愚鈍な兄は心配を安堵に変えて、いつもと変わらない調子を取り戻すと、呑気にエントランスポーチの段を昇り始めた。  「……レイウッド?」  苛々する、本当に苛々する。  両親に愛され、何の苦労もなしに生きてきたこの男は、あの子が、ジェリンが欲しいといくら願っても手に入れることが出来ないものを全て持っていた。  家に入るようにと促すように伸びるアドルフの手がワタシの服の袖を掴む寸前、ワタシの中で溜めに溜められ、膨らんだ嫌悪が牙を剥いた。  ――それは、アドルフとの決定的な決裂の瞬間だった。  彼の手を振り払い、何が起きたのかと呆然とするアドルフの顔を、絶対零度の冷ややかさで見下していた。  「家に入るのはあなただけです。  ワタシは早急に悪魔達からジェリンを助け出さねばなりません」  悪魔“ 達 ”――  初めから、こうしていればよかったのだとワタシは気付いた。  他力本願の念で待ち続ける“ いつか ”よりも、自分が行動に移した方が、遥かに早く、効率がよかった。  姿が蒼い毛並みの狼に変わっていく。  獰猛な獣の鼻は、目指すべき道を鮮明にワタシに教えてくる。  「レイウッド! おいレイウッド!!」  月下の大地を蹴ったワタシの後方から、アドルフの呼び声が聞こえてくる。  ええ、取り戻してきますよ、ジェリンを。  あなたを愛する両親の死体と一緒にね――
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