ジェリン編〈1〉仄かな想い

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 お嬢さんを屋敷まで迎えに行き、夜会へのお供。  噂好きの女達や貴族の輪に入れるはずもなく、壁際にぽつんと立たされること数時間。  舞踏会が始まるなり、抜け出そうと腕を引かれて、離れの一室に連れていかれた。  『元々そういうお積もりでこちらにいらしたのでしょう?』  などと言って、吐き気がするほど甘ったるい香水をぷんぷんさせて、首に腕を回し、キスをせがんでくる。  勘弁ならないとかわしてみせれば、  『顔に泥を塗られた!』  と大騒ぎ。  結局、騒ぎは収まったものの、それ以降は全く見向きもされず、そのまま夜会の閉会と時を同じくして物別れし、家路についたわけだ。  よくよく考えてみりゃ、そりゃ夜のお守りなど聞きゃ大抵の男はそんな発想するよな。俺が女に興味が無さすぎるのかもしれないな。  そろそろ夜明けが近付いている頃合い、東空の端が淡く赤らんでいる。  薔薇庭園を越え、エントランスポーチの壇を昇り、どっと疲れた顔でドアを開けた俺の眼に、レイ兄の姿が飛び込んできた。  「あれ、レイ兄」  腕組みしながら壁に身体を預ける姿勢でいたレイ兄は、俺の姿を目に留めるや、ツカツカと近寄ってくる。  「どうでした、デートとやらは。  楽しかったですか?」  「まあ、それなりに」  ヘマして追い返されたなどと言えば笑われるに決まってる。  それが癪で、俺は嘘でプライドを塗り固める。  「やっぱり女はいいよな。可愛い声でよがってくるんだぜ」
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