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お嬢さんを屋敷まで迎えに行き、夜会へのお供。
噂好きの女達や貴族の輪に入れるはずもなく、壁際にぽつんと立たされること数時間。
舞踏会が始まるなり、抜け出そうと腕を引かれて、離れの一室に連れていかれた。
『元々そういうお積もりでこちらにいらしたのでしょう?』
などと言って、吐き気がするほど甘ったるい香水をぷんぷんさせて、首に腕を回し、キスをせがんでくる。
勘弁ならないとかわしてみせれば、
『顔に泥を塗られた!』
と大騒ぎ。
結局、騒ぎは収まったものの、それ以降は全く見向きもされず、そのまま夜会の閉会と時を同じくして物別れし、家路についたわけだ。
よくよく考えてみりゃ、そりゃ夜のお守りなど聞きゃ大抵の男はそんな発想するよな。俺が女に興味が無さすぎるのかもしれないな。
そろそろ夜明けが近付いている頃合い、東空の端が淡く赤らんでいる。
薔薇庭園を越え、エントランスポーチの壇を昇り、どっと疲れた顔でドアを開けた俺の眼に、レイ兄の姿が飛び込んできた。
「あれ、レイ兄」
腕組みしながら壁に身体を預ける姿勢でいたレイ兄は、俺の姿を目に留めるや、ツカツカと近寄ってくる。
「どうでした、デートとやらは。
楽しかったですか?」
「まあ、それなりに」
ヘマして追い返されたなどと言えば笑われるに決まってる。
それが癪で、俺は嘘でプライドを塗り固める。
「やっぱり女はいいよな。可愛い声でよがってくるんだぜ」
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