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――――嘘だ、そんな……!
父さんと母さんを殺したのは……!
当時、不規則に襲い掛かってきたダンピールの刺客を手引きしていたのは……
鳴らしていた喉の動きが、感情に揺さぶられて止まると、俺の背を撫で付けていたレイ兄の手付きが強張った。
「そうです……あなたの両親を手にかけたのは、襲い掛かってきたダンピールではなく、このワタシです。
ワタシがあなたの両親の仇なのです」
切々とした語り口で紡がれる告白は、懺悔室で罪人が告白するような、自嘲じみたものだった。
レイ兄が助けに来てくれなかったら、俺は今ここにはいない。
レイ兄は俺のために……手を汚した。
「なぁーん……」
猫の姿ではこのような間抜けな声でしか感情を伝えられない。
耳をしょげさせて、レイ兄の指の間をちょろちょろと舐めた。
「…………それはワタシがあなたの記憶をお返ししてからにして下さい。
下手な期待をさせるのはやめてください」
弱気なレイ兄の姿を目にするのは、人間になったアド兄を出迎える時の姿と重なる。
などと考えている隙に、レイ兄の大きな手が俺の耳を擽った。
「あの時、一体何があったのか……怒りで我を忘れた愚かな男が、あなたの目の前でどのようにして父母を手にかけたのか……ワタシは一片たりとも申し開きもできない…」
頭の中に注ぎ込まれていく映像に、俺は呻き、レイ兄の腕の中に沈みこんだ。
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