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それを悲しいと感じるよりも、実際のところはもう半分以上諦めかけていた。
レイ兄の言葉だけが生きる支えだった。
『頑張りなさい。
ワタシが見ていてあげます。
あなたが努力しているところを。
そして証明して見せてください。
――例えどんな運命でも打ち負かすことができるということを』
どんなに力なく生まれようとも、剣を振り続けてきた。
父さんや母さんにいつの日か、認められるために。
“ 吸血鬼としての力はなくとも、ジェリンは自慢の息子だ ”
そう思われる日を夢見てきた。
挫けそうになった時はいつも、レイ兄の言葉を思い出し、気を奮い立ててきた。
それももう潮時かもしれない――
やがて、流水音に混じって足音が現れた。
湿り気を帯びた空間に反響する音は、ふたつ。
――まさか、本当に!?
恐怖感からさめざめと流していた涙の色が別のものに変わる。
信じられなかった。
断崖絶壁の一本道を、父さんと母さんが並んで歩いていた。
瞳におぞけが走るような強力な殺気をみなぎらせ、はらんだ怒気。
ダンピールの男は完全に恐怖に呑まれていた。手にしていた銀の杭槍の切っ先がカタカタと震えている。
一瞬で力量の差を感じ取ったのだろう。
「近付くな!
いいか、これ以上近付けば、ガキの命はねえ!
いいか、殺すぞ!
武器を捨てろ、降伏しろ、今すぐだ!」
感激に胸がうち震えた。
父さんも母さんも、来てくれた。
危険を犯してまで、俺を助けに……!
喉元に突き付けられる聖なる金属も、滝壺への恐怖も忘れて、俺はすがるような目でやや離れた場所に並んで立つ二人を見上げた。
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