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――青い世界に、小さな異物が現れた。
点のような矮小なそれが、どんどん俺の方へと近付いてくる。
俺が沈むよりも、その物体が近付いてくる方が遥かに速かった。
――!? まさか、そんな……
蒼い……コバルトの髪が、冷淡に見えて本当は底抜けの優しさを内に秘めた琥珀の瞳が、俺を抱きとめてくれた広い胸が、
『ジェリン……良かった…、良かった……!』
伸ばされた手が、俺の背に回った。
『怖かったでしょう、もう大丈夫です。
さあ、戻りましょう』
頭の中に優しく囁きかけるように発せられるメッセージに、俺はただ頷く素振りをしようと首を動かそうとすることしか出来なかった。
深度を進めていた身体が、あっという間に高度を上げていく。
遠ざかっていたはず青いフィルタを突き抜けた瞬間、新鮮な酸素が鼻をきつく刺激した。
ゴホゴホと前のめりになりながら水を吐き出す俺は、崖下の岩場に命からがら辿り着くと、その一つにのしかかるように匍匐前進し、身体をうつ伏せた。
再生が優位に働き、みるみる内に皮膚を修復していく。
後ろに回っていたのだろう、レイ兄が縛られた手足のロープを鋭利な爪で引き裂いた。
長らく縛られていた腕をすぐに動かすことができず、慣らすようにブラブラさせていた俺の後方から回った手が、最後の枷である猿轡の封印から俺を解き放った。
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