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「……レイ…に――っ」
息を整えながら時折咳き込み、水を吐き出す俺の背をレイ兄は優しくさすり、一通り落ち着くのを見計らうと、すぐにも俺を抱き上げた。
当時、十歳――成長途中の子供だった俺の華奢な身体は、二十歳を迎えたレイ兄の腕にすっぽりとおさまっていた。
安心からか、俺はすぐそこにあったレイ兄の首に腕を回し、気が済むまでずっと泣きじゃくった。
レイ兄の唇が俺の頬を交互に何度も触れる。
親愛を示すその行為が、その感触がくすぐったくて、あったかくて、とめどなく流れていた涙が徐々に押し込められていく。
「ジェリン……生きていてくれてありがとう、良かった……無事で」
レイ兄が俺をそろりと地に下ろした。
濡れてびしょびしょになったコバルトの髪を後方に追いやって、レイ兄は俺の顔を真正面から見つめてくる。
「レイに……」
互いに冷えた身体。
両肩に綺麗な手が回り、細やかに生え揃った長い睫毛が、形のよい唇がすぐそこにあった。
「ジェリン……」
レイ兄の唇が俺の名を描く――綺麗だな…
虜になったように視線を漂わせる俺の唇にレイ兄のそれが押し付けられた。
その柔らかさに驚いて目を見張った俺に、一度離された唇が囁いた。
「目を……閉じて…ジェリン」
熱に浮かされるように、夢心地の俺の鼓動が不規則な音色を奏でる。
言われたままに瞳を伏せた時、熱いものが唇を通り抜けた。
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