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「―――っ…」
勿論当時の俺はそんな刺激は初めてのこと、求められる動きについていくことなど不可能で、与えられる甘さに身をよじり、レイ兄の腕の中でただ捨てられた猫のように身体を預け、震えていた。
「ジェリン……! ジェリン…!!」
「レ、レイに……ぃ」
離れた直後、レイ兄は申し訳なさそうに眉をひそめ、歯をくいしばった。
苦悶の表情を浮かべる姿が痛々しくて、笑ってほしくて、俺はレイ兄を見上げ、力が入らない手でレイ兄の髪を梳いた。
「ありがとう、助けてくれて、ありがと……レイ兄…。
もうダメかと……思っ…」
「必死でした……から。
でも、あなたをこんな苦しい目に遭わせる前に……助け出したかった…」
そうだ――俺の目は反射的に崖上を見上げていた。
父さんは、母さんは……どうなったんだろう。
あんなことがあって、顔を合わせるのは少しだけ気まずい。
俺は生きていていいのだろうか。
答えは、今なら、レイ兄が来てくれた今ならしっかりとその言葉を肯定できる。
「レイ兄……、父さんと母さん……は?」
「………………」
その問いに、レイ兄はすぐには答えなかった。
「……レイ兄?」
だんまりを決め込むレイ兄はしばらくそのままずっと押し黙っていたものの、やがて決意したように崖上を見上げた。
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