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「へぇ、意外でしたね、女性の扱いひとつ知らないようなあなたがそのようなことをするとは思いませんでした」
「そりゃ、レイ兄だってそうだろ。
レイ兄は常に女をはべらせてるからなー」
「………ませんよ」
「はっ?」
レイ兄の低い声が朝焼けの到来に光を誘い込ませるエントランスの通路にはっきりと通った。
「ワタシは誰一人、一度たりとも女を抱いたことなどありませんよ」
「えっ……!?」
予想外な言葉に何も言えず、俺は立ち竦んだままレイ兄を見上げる。
その反応が余程気に召したんだろう、レイ兄は薄い唇の端をつり上がらせ、俺をまっすぐに射抜いた。
琥珀の瞳が見透かすように細められ、値踏みするように見下ろすその視線から逃げれば、自分から嘘を告白するようなもの。
しっかりと睨み返してやれば、レイ兄は興味が失せたのか身を躱すように俺から距離をとった。
「あなたはワタシのことが好きなのだとばかり思っていましたが、どうやらそうではなかったようですね……残念です」
「………………!!」
作戦だろ?
どうせそれもいつもの作戦なんだろ?
傷付いたような顔付きで俺の前から退いたレイ兄。
「引き留めたりして申し訳ありませんでした、ではワタシは部屋に戻って寝直しますので」
! 部屋に戻る、って――じゃあ、ここに立っていたのは俺を待っていたからってことなのか……!?
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