第1章

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自室につく手前の廊下を曲がれば、中庭が見えてくる。 俺のおきにいりといってもいい場所だ。 縁側の足元に置いてある下駄に履き替え、地面に降りる。 下は草と砂利で、近くにはどこから引っ張って来ているのか、流れ出る水を受け止める獅子脅しと鯉の泳ぐ池。その背後にはでかい木がどっしりと佇んでいる。 夜にここへ来ると、池がライトに照らされ幻想的な光を放つ。 それをなんとなく眺めているのが好きだ。 縁側の淵に座り、ぼーっとしていると、頭上から声が聞こえた。 「龍臣…か…?」 名前を呼ばれ上に目を向けるが、人の姿は見えない。 空耳か…?と思ったが、がさりという葉が揺れる音に声の出所に気付いた。 名前を呼んだであろう人物は一本木の上にいるらしい。 暗いせいかよく見えないが、鋭く光る瞳が木の陰から覗いている。 ……ロウだ。 「ロウか。そういえばいなかったな…ここにいたのか?」 確か食事のときは姿がなかった。 そう思い聞くと、ロウの瞳が肯定するように瞬く。 「ああ…食欲湧かなかったから」 「そうか」 ロウが食事のときにいないのは珍しいことじゃない。逆にいる時の方が少ないくらいだ。 居候というのを気にしているのか、それともみんなで食うのが嫌なのか。 どちらにせよ、ちゃんと食べているなら問題はないと思うが。 「…頭首が帰ってきたんだろ?」 「ああ。戦争の大将は俺だとよ」 「龍臣が…?」 さっきの出来事を口にすれば、ロウの声のトーンが変わった。 表情は見えないが、どことなくいつもより低く不安げな声だ。 無愛想なロウにしては珍しい。 「…大丈夫なのかよ?」 これまた珍しいことに、心配そうな声音で言う。 ロウはここにきてあまり日もたっていないし、俺はあまり好かれていないと思っていたから意外だ。 「めんどくせえけど…もう決まったから」 今更とやかく言ったって仕方のないことだ。 面倒なことには変わりないが、適当にやるしかない。 向こうからくるなら返り討ちにするだけ。こっちからはめんどいから、そこは他の奴にやりゃせりゃいいし。 「お前、強いのかよ?」
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