第1章

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「…多分?知らね」 まだ不安げなロウの質問に、曖昧に返す。 まあ今まで負けたことはねえし、亜笠もああ言ってることだし、それなりには強いと思うが。 しかし今日のロウは饒舌だ。こんなに話したのは初めてかもしれない。 顔が見られるならどんな顔して喋っているのか見てみたいものだ。 「…辞退しようとかは思わねえのかよ?どうせ全区域の頭になんざ興味ないんだろ?他の組に渡しちまえばいいじゃねえか」 ロウは普段よりも幾分か早い口調でそう問いかけてきた。 それは俺に降参しろと言ってるのか。 まあ確かにそうすれば面倒なことはしなくて済むし、無駄に疲れることもないだろう。 でも、それは組員たちの…親父の信頼を裏切るということだ。 面倒なことは嫌いだが、でも、なんとなくみんなの悔しがる顔も悲しむ顔もあまり見たくはない。 ていうか“降参します”とか情けなくて言えるか。 「…確かに頭には微塵も興味ねえけど…辞退するとかは、考えなかったな…」 そう呟けば、ロウの光る瞳が薄く細められる。 「優しいんだな……」 ぽつりと、いつもの声のトーンでそんな言葉が降ってきた。 その言葉に眉を寄せる。 「…は?」 どう解釈したら優しい、なんて言葉が出てくるんだ? 「!…っ忘れろ!」 不思議に思っていると、ロウは慌てたように言い、がさりと音をたて木の奥へと消えてしまった。 反応からして少しの間は戻ってこないだろう。 なんだあいつ… 俺は訝しく思いながらも、ロウの普段とは違う部分を見れて新鮮な気分だった。
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