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「…多分?知らね」
まだ不安げなロウの質問に、曖昧に返す。
まあ今まで負けたことはねえし、亜笠もああ言ってることだし、それなりには強いと思うが。
しかし今日のロウは饒舌だ。こんなに話したのは初めてかもしれない。
顔が見られるならどんな顔して喋っているのか見てみたいものだ。
「…辞退しようとかは思わねえのかよ?どうせ全区域の頭になんざ興味ないんだろ?他の組に渡しちまえばいいじゃねえか」
ロウは普段よりも幾分か早い口調でそう問いかけてきた。
それは俺に降参しろと言ってるのか。
まあ確かにそうすれば面倒なことはしなくて済むし、無駄に疲れることもないだろう。
でも、それは組員たちの…親父の信頼を裏切るということだ。
面倒なことは嫌いだが、でも、なんとなくみんなの悔しがる顔も悲しむ顔もあまり見たくはない。
ていうか“降参します”とか情けなくて言えるか。
「…確かに頭には微塵も興味ねえけど…辞退するとかは、考えなかったな…」
そう呟けば、ロウの光る瞳が薄く細められる。
「優しいんだな……」
ぽつりと、いつもの声のトーンでそんな言葉が降ってきた。
その言葉に眉を寄せる。
「…は?」
どう解釈したら優しい、なんて言葉が出てくるんだ?
「!…っ忘れろ!」
不思議に思っていると、ロウは慌てたように言い、がさりと音をたて木の奥へと消えてしまった。
反応からして少しの間は戻ってこないだろう。
なんだあいつ…
俺は訝しく思いながらも、ロウの普段とは違う部分を見れて新鮮な気分だった。
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