第1章

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「お前が吸っていたら示しがつかないでしょう、亜笠」 亜笠と呼ばれる男を藤が睨む。 正反対の立場にあるためか、この二人はあまり仲が良くない。 亜笠は魔族の悪魔だ。今現在は人間らしく振舞ってはいるが、真っ赤な髪に真っ赤な瞳は人ならざるモノを連想させる。 龍臣は二人を見比べ、またもや深いため息をついた。 色々言いたいことはあるが、これだけは言っておこう。 「……勝手に出てくるなよ…」 二人の言い合いが終わった頃、龍臣は自宅への帰路についた。 路地を出てしまえば、自宅までは10分とかからない。 散歩を不逞な輩に邪魔されたこともあり疲れていた龍臣は心なしか早歩きで道を歩いた。 程なくして自宅まで着いた。…いや、細かく言えば自宅の前までか。 龍臣の目の前には木製のどでかい門。見上げるほどに高い堀は果てしなく遠くまで続いている。 扉の前に立てば、門は重工そうな音をたてながら自動で開いていく。 そこから進めば、これまたでかい日本庭園が広がり、そこからまた3分ほど歩いたところに龍臣の家…青龍の本部はある。 門から見てもわかるように、龍臣の家は規格外にでかい。昔から代々続く日本家屋だが、どう考えてもでかすぎる。 組員を含め、ここに住む者にとってはもう慣れたものだが、初めてこの家を見た人間は全員が全員驚愕した表情を見せるものだ。 この家で生まれてこの家で育った龍臣だが、門から家までのこの距離はいらないと思っていたりする。 見慣れた美しい日本庭園にも目を向けず、玄関の扉を開けば、近くを通りかかったであろう組員たちが龍臣の姿に頭を下げ挨拶してきた。 「おかえりなさい!若!」 「…ああ」 それに短く返事をすると、さっさと自分の部屋へ向かう龍臣。 そんな姿を見て組員たちは囁くのだ。 今日も若はクールだ……と。 そんなことをいわれているとは露知らず、龍臣はこれまた長い廊下を歩く。 右手には鮮やかな緑を保つ草木と堀、左手には土壁と等間隔に配置されている部屋の扉。 どこぞの高級な旅館かと思うくらい隅々まで手入れが行き届いている。 これも組員達の日々の掃除のおかげだ。…手伝いさんはいない。
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