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突然のお誘いに龍臣は藤を凝視する。
主の驚いた(といっても微々たる表情の変化だが)顔にも藤は笑顔を崩さない。
「…いい」
「遠慮しないで、ほら」
どことなく青い顔をする龍臣だが、藤は気にせずその腕をとった。
そうなると龍臣は更に拒否するように腕をほどこうとする。
「そんなに嫌がられると流石に傷つくよ」
「知らん。もう18だぞ。無理だ」
「大丈夫だよ。落としたりしないって」
「そういう問題じゃない」
会話だけだと何の話か見当もつかないが、龍臣の反応からして最近はやらなくなったことを藤はしようとしているのだろう。
そして龍臣はそれが嫌なようだ。
ギリギリと腕に力を入れる龍臣だったが、きりがないと思ったのか、藤は強行手段に出ることにした。
「!」
強い力で引っ張られ、体勢を崩す龍臣の体を藤は軽々と受け止めた。
そして慣れた動きで龍臣を横抱きにしたではないか。
驚く龍臣を尻目に、藤は紅い翼をバサリとはばたかせ、一気に空へと舞いあがった。
久々に感じる浮遊感につい体がすくんでしまうが、すぐに藤をじとりとした目つきで睨む龍臣。
藤の送る、というのはつまりは空を飛ぶことなのだ。
龍臣がまだ小さい頃は時々こうして藤に抱えられて家まで帰っていたが、もう龍臣も子供ではないし、身長だって一般の日本男子の平均を軽く超えている。
それを龍臣より細い体で軽々と持ち上げてしまう藤はやはり人外ということなのか。
そんなことよりも得意げな表情が気に食わない。
文句を言ってやりたいが、空に昇ってしまえばあとは藤の為すがままだ。
喉まで這い上がってくる言葉を飲み込み、代わりに溜息をはいた。
「さて、それじゃあ帰ろうか」
どこかさっきよりも上機嫌な藤はもう一度翼をはためかせるのであった。
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