第1章

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なんて頭の片隅で思っていると、前方から見知った人物が歩いてくるのが見えた。 龍臣よりも暗い灰色の頭にイヌ科の耳を生やし、気怠そうに歩くその男は龍臣の存在に気付くと顔をしかめた。 しかし睨まれた若頭は気にせず歩く足を止めない。 そんな彼に男はすれ違う間際に声をかけてきた。 「おい」 それに龍臣は目線だけで応える。 「…どこ行ってたんだよ」 男…ロウは不機嫌気味に問うた。 「…散歩。お前は今起きたのか?」 「悪いかよ」 ぶすっとした顔で答えるロウに龍臣はふっと笑い、しかし何も言わずに歩き出してしまった。 「…んだよ」 わずかに微笑みを浮かべた龍臣に、ロウは複雑な心境で顔をしかめた。 ロウは十束宅に居候している獣人だ。 昔は主のいた召喚獣ではあるが、今は主がいない。 獣人は異世界に住む天属や魔族とは違い、同じ世界に存在している。 天属や魔族は主との契約が切れた瞬間に元いた場所へと自力で帰ることができるが、獣人は契約が切れる前に主に決まった方法で元いた場所まで帰してもらわなければならない。 ロウは前の主に捨てられ、元いた場所に帰ることもできず彷徨っていたところを龍臣に拾われた身だった。 拾ってくれた龍臣に感謝していない訳ではないが、前の主の手前もあり、自分の気持ちに素直になれなくなってしまった。 だからつい龍臣にも素っ気ない態度を取ってしまうのだ。 ロウは自分の不甲斐なさに舌を打つと、再び歩き出した。 龍臣がしばらく歩くと、やっと自室が見えてきた。 いちいち無駄にでかい家だと生活するのも楽ではない。 襖を開けば畳…ではなくフローリング。龍臣は畳よりフローリングの方が好きなので、それをいつだったかぼそりと呟いた翌日に、自室が和室から洋室になっていた。 その内扉も洋式に変わるだろう。 龍臣の自室は、物欲の少ない彼を顕著に表したかのようだ。 クローゼットやテーブル、ソファ等、生活するのに必要な物以外は全くと言っていいほど置かれていない。 ベッドは黒、カーテンはシックな灰色、フローリングの上に敷かれたカーペットはモノクロのボーダー柄、その他の家具も全体的に暗い色なので男らしいと言えば男らしい部屋なのだろう。
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