第1章

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テレビもゲームもないその部屋に入ると、龍臣はすぐさま気怠い体をベッドへ横たえた。 蓄積された疲れを癒すためにも睡眠は大変重要だ。 何かを考えるよりも速く、龍臣の瞼は自然と降りていた。 ふと目が覚めると、窓から見える外は薄暗い。 どうやらかなりの時間寝ていたようだ。 ベッドから起き上がると自室を出た。 広間の方へ出向けば、そこでは組員たちが忙しなく夕飯の支度をしていた。 ここでは十束宅に住む組員たちみんなで食事をするというルールがある。もちろん用意するのも組員たちだ。 しかし今日はいつも以上に忙しない。 台所と広間の間をお膳を持った組員達が行きかい、所々で慌てた声が聞こえる。 龍臣は不思議に思い、丁度近くを通った見知った組員を捕まえる。 「わっと、あぶなっ…て若さん!」 お膳を持ち運んでいた組員、佐竹は突然肩を掴まれたたらを踏んだ。 茶髪に穏やかそうな顔の今時の若者風情な佐竹は、青龍の幹部の一人。 こちらに振り向き驚いている様子を見るに、龍臣がいたことに気付いていなかったようだ。 「なんでこんなに騒がしいんだ」 龍臣がそう問えば、佐竹はああと頷く。 「若さんは知りませんでしたっけ?今日は頭首が帰ってくるんですよ」 「…親父が?」 「はい。俺らもそのことさっき聞いて、なんでも今朝連絡が来てたそうなんですけど…連絡受けた萩さんが言うの忘れてたとかで今大急ぎでごはんの支度してるんですよ」 困ったように笑う佐竹に、龍臣はそうかと呟く。 ちなみに萩とは青龍の幹部長である萩原のことだ。龍臣より一回りくらい歳が上な厳ついおっさんだが、忘れっぽいところがたまに傷だ。 まだそんな歳でもないだろうにもうボケ始めたか…と思っていることは口にしない。 「じゃ、俺まだ準備あるんで!」 「ああ」 佐竹は元気に言うと、また忙しそうに走って行った。 親父帰ってくるのか…。ぼんやりと思う。 龍臣の父親であり、青龍の現頭首である十束龍正は、一か月ほど仕事で他の区域に出向いていたとのこと。
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