第1章

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それにチャンスだというように萩原が声を張り上げる。 悪乗りなのか好奇心なのか、他の組員たちが肯定の返事を返した。 引くに引けなくなってしまった龍臣。 ニヤニヤ笑う萩原を思いっきり睨み、龍臣は大きなため息をこぼした。 結局極度のめんどくさがり屋な若頭も、組員には甘いのだ。 それから間もなく、龍正が帰ってきた。 「「「お勤めご苦労様です!!」」」 門から玄関の方まで、石畳の道の両脇を組員たちの列が埋める。 その間を龍正とボディーガードたちが歩いてくる。 いつだったか見たやくざ漫画のワンシーンのようだ。 …まあ実際その漫画見た龍正が、今度から俺が帰るときはこれで出迎えろと言ってから始まったのだが。 我ながら呆れた父親だと龍臣は思った。 そんなことを思い出していた龍臣の前に、龍正が歩いてきた。 「ただいま。龍臣」 「…おかえり」 米神部分だけ灰色に染めた黒髪を後ろに撫でつけたスタイルはいつも通りで、それなりに歳を食っているにも関わらず衰えることのない色男ぶりはご健在だ。 そこいらの女性が見たら卒倒するくらいのイイ笑みを、龍正は龍臣に向ける。 龍正がこういう顔をするときは大抵ろくなことを言いださない。 ふつふつと嫌な予感を感じる。 微妙な心境の龍臣の頭をポンポンと叩くと、龍正は話は後だというように玄関へ入っていった。 ああ…広間行きたくねえ…と憂鬱になる龍臣だった。 「「「いただきます!!」」」 みんなが広間に揃い、食事が始まる。 席はいつも決まっている訳ではなく、龍正の気まぐれで決まる。 今日はどうやら組員たちの顔を見渡せる位置で食べるらしく、龍臣も隣に座らされた。 広い部屋いっぱいに四角の形に組員達が座り、丁度奥の中央に龍正と龍臣。両隣は幹部らが固めている。 各々自由に食事を進める中、龍正がお、と声をあげた。 「このハンバーグ、龍臣が作ったろ?」 「!…なんで」 隣に座る龍臣に、得意げな笑みを浮かべ聞く龍正。
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