第5章

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桐咲side 十束さんの元からの帰り際、僕は車の助手席でぼーっとしていた。 僕はあの時初めて十束さんを見たときから、なんとなく十束さんは全体的にやる気がなくて、自分以外の人になんて興味を持っていないのだろうと思っていた。 でも、今日真正面から戦ってみて印象が変わった。 戦闘となると、彼はとてもまっすぐで強い意志を持った目つきをする。 迷いがなくて…僕とは大違いだ。 それに 『お前は何かに操られてるみたいだ』 まさか会って間もない彼にそんなことを言われるとは思ってもいなかった。 僕はそんなにわかりやすく表情に出ていたのだろうか…。 無意識に膝に置いた拳に力が入る。 ……彼が少し羨ましかった。 戦闘能力にも長けていて、部下との間に深い絆があって、それでいて才能に埋もれず自分の意志で立っている彼が。 …でも、それは彼に才能があるからとかじゃない。彼は僕が知りえないほど今まで努力してきたんだろう。自分の力で今の場所を作り出したんだろう。 誰かの言うことでしか動けない僕とは違って…。 「千夏さん…大丈夫ですか?」 すると隣で車を運転していた部下の岩田が心配そうな表情で声をかけてきた。 僕ははっとして、大丈夫と返した。 「そうですか…あまり気負わないでくださいね。今回のことは千夏さん一人だけの責任ってわけじゃないんですから」 「………うん」 岩田の言葉に、僕は驚いて、それから小さく頷いた。 僕は何を思ってたんだろう。 僕にだって、まだ全てを任せられるわけじゃないけど、頼れる部下がいる。 こんな僕でも心配して、ついてきてくれる組員がいる。 それはとても幸せなことなんだ。青龍のあの人にも言われたじゃないか。 …それに、僕は今日、生まれて初めて自分の意志で動いたんだ。 あの人に命令されたからではなく、自分の意志で。 「…千夏さん、頭首への報告ですが…」 岩田も同じ人を頭に思い浮かべていたのか、言いずらそうに口を開いた。 「うん。大丈夫」 今日のことを知ったら、あの人は怒るだろう。 でも、絶対に説得して見せる。 もう僕は操り人形ではないのだから。
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