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「禁忌の実験は、失敗だと言うもののいれば成功だと涙を流す者もいて、――この世に存在してはいけないと唱えるものも出て、――けっきょく無かったことになったんだ」
「その禁忌って何?」
勿体ぶった口調に、焦らされて心地が悪い。
寝る前に聞く物語にしては、後味が悪い。
なのに銀太はにっこりと笑う。
にかっと口の端を大きく開けながら、私の手を取ると顔を上げさせた。
そしてピアノの蓋を上げさせると、楽譜を置く。
楽譜はボロボロで年季が入っている。
でもそれが、私の小さい頃使っていた楽譜だと分かると、急に身体が動かなくなる。
楽譜をめくり、銀太はメヌエットのページを開くと、私の耳元で囁く。
「蘇生。死体にね、魂を植え付けるんだって」
「銀太?」
「教えるから、弾いて。メヌエットを。あの日、俺に弾いてくれただろ?」
「成功したけど、失敗したんだって。でもね、君が傍に居てくれるから」
だから俺は上手に嘘をつく。
――どれが本当の俺でしょう?
そう呪文のように銀太が耳元で囁くと、私の手は、指は、勝手に動き出した。
奏でるのは、夜を引き裂くメヌエット。
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