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私は彼に何度も何度も同じ言葉を言った。 だって、銀太(だと思う)はずっとずっと泣いていたから。 『君は君だよ。私は大丈夫。君をちゃんと見つけるよ。ずっと君を忘れないよ』 繰り返し、大丈夫、忘れないと連呼した。 それで安心してくれるのならば何度でも何度でも呼ぼう。 抱き締めて、ハンカチで涙を拭って。 『ねぇ、君が僕を認識するのって何?』 『何ってどういう意味?』 『この身体から僕が出て行っても、君にとって僕は僕?』 その時は私――何って答えたんだっけ? 思い出そうとすると、ピアノ線のように記憶が何層にも何層にも束になり、行く手を阻む。 でも私は、きっと嘘を言わなかった。 私は銀太と向き合った。 はず?   そう言えば、兄さんが死んだ時私、混乱してた。 携帯で電話したのを、銀太が奪ったよね? ――この学園にいるはずの銀太が。 あの場所で。 ――あの場所? 白い壁に白い床、汚れなんてないシーツ。 横たわる、痩せ細くなった兄さん。 あれ? 張り詰めたピアノ線。 奏でるのは、狂ったように美しいメヌエット。
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