120人が本棚に入れています
本棚に追加
私は彼に何度も何度も同じ言葉を言った。
だって、銀太(だと思う)はずっとずっと泣いていたから。
『君は君だよ。私は大丈夫。君をちゃんと見つけるよ。ずっと君を忘れないよ』
繰り返し、大丈夫、忘れないと連呼した。
それで安心してくれるのならば何度でも何度でも呼ぼう。
抱き締めて、ハンカチで涙を拭って。
『ねぇ、君が僕を認識するのって何?』
『何ってどういう意味?』
『この身体から僕が出て行っても、君にとって僕は僕?』
その時は私――何って答えたんだっけ?
思い出そうとすると、ピアノ線のように記憶が何層にも何層にも束になり、行く手を阻む。
でも私は、きっと嘘を言わなかった。
私は銀太と向き合った。
はず?
そう言えば、兄さんが死んだ時私、混乱してた。
携帯で電話したのを、銀太が奪ったよね?
――この学園にいるはずの銀太が。
あの場所で。
――あの場所?
白い壁に白い床、汚れなんてないシーツ。
横たわる、痩せ細くなった兄さん。
あれ?
張り詰めたピアノ線。
奏でるのは、狂ったように美しいメヌエット。
最初のコメントを投稿しよう!