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ギコギコ、カスカスと、音が鳴らず、洩れていく。
足で押したペダルが重たくて、ピアノの『ソ』の音が押しても鳴らない。
「鳴らない、わ。鳴らない」
うわ言の様に、独り言のように、ぼんやりとブツブツ呟く。
「何でかな? 中、開いてごらんよ」
まだ夢を漂う私に、銀太はピアノから降りて両肩に手を置く。
そして呪文のようにそう言う。
――開けてみなよ。
その言葉に操られるように私はピアノの前屋根だけを開ける。
「――――っつ」
開けた先、ピアノ線の上や間に散らばるのは、
人の指、だった。
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