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「死体」
美美の嗅覚は野生の動物かと疑いたくなるぐらい優れている。
ペットショップでも、動物の排泄物の匂いで健康管理できるぐらいに。
では、彼女はどこで死体の匂いを嗅いだことがあるのだろうか。
珊瑚が夜の廊下でも傘をさそうと広げるように。
「夢琴さん、夢琴さん」
コンコンとノックするが、返事はない。
だが二人もそのまま引き下がるようでは、あの男の下で働けない。
珊瑚はゆっくりと傘でドアを叩き開ける。
その細腕のどこにその力があるのか。
折れた傘を見つめて、動かなくなった珊瑚の首根っこを引っ張りながら、美美がその部屋へ侵入した。
「あーあ。なんで入ってくるの?」
クスクスと銀太が笑っている。
その少し離れた場所に置かれたソファに夢琴が気絶するように眠っている。
「今の悲鳴は?」
「悲鳴? 悲鳴なんて聞こえたかな」
銀太はとぼけると、ピアノの上屋根をパタンと閉める。
そして、部屋に放し飼いにされている星丸を抱き締めてると、彼女の眠るソファの腕起き部分に腰をかけた。
「勉強時間に廊下へ出るような馬鹿がいる学園じゃないんだけど」
「ここに、夢琴さんのお兄さんの死体があるんじゃないの?」
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