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銀太は、わざと謎めいた口調でそう言うと、クスクスクスクス笑いだす。
「ん……」
銀太の笑い声に、夢琴が寝がえりをうち五月蝿いと言わんばかりに眉をしかめた。
「彼女は、僕に操られているだけ。彼女に何を聞いても無駄だと思うよ。それでも、近づくの?」
優しく、まるで恋人のように髪を撫でながら、そう言う。
「ああ。おまえは嘘ばかりだからな」
「ふうん」
にやつきながら、銀太は二人を見ながら満足げに頷く。
「じゃや、メヌエットだけは弾かせないように。ピアノに近づいたら駄目だからね」
黒いビニール袋から放つ悪臭に、美美が鼻を摘まみながらも、二人はそこまで進むことも許されず、のこのこ部屋を跡にした。
あと一歩の所で二人が引き下がるのは、自分の運命を閉じ込めた時間を奪った『記憶』が邪魔をしたからだ。
銀太の話し方が、二人の記憶の片隅に残るある人に似ていたから。
三日月が夜空に刺さるような、凍てつく夜。
謎はすぐ隣まで来ていた。
謎は隣で、ふわふわと逃げていく。
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