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「メヌエット。私の初めて貰った楽譜」
「その曲って、弾いていただけますか?」
ぐいっと珊瑚くんが詰め寄ってきた。
急に生き生きしてきたというか。
「弾けるーーけど、ピアノがあるのって特別棟と銀太の自習室だけだよ」
「特別棟とは、音楽科の人たちの校舎?」
「ええ。あそこは楽器から機材から一流の高級品ばかりだから、普通科の私たちは入れないんじゃないかな?」
音は聴こえてくるけど、そう簡単に入れるとは思えない。
彼らは、私たちのように閉じ込められてもプライドだけはありそうだし。
「じゃあ、自習室か」
「あの、図書室とかにいけばクラシックのCDぐらい借りれるんじゃない?」
「機械は駄目です。貴方が弾くことが大事ですから」
「ふうん」
珊瑚君が首を捻っている。
でも、普通科には音楽室ないし。
体育館ならあるのかな?
いや、見たことないか。
「ますます怪しい。貴方とピアノを引き離すような環境ですよね」
「そう? 私は別に引きはがされても問題ないけど」
そんなにピアノに執着ないし。
そう笑うと、珊瑚君はゆっくり傘を閉じた。
傘を閉じても、――彼はもう雨で濡れていなかった。
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