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「貴方は、小学生の時からピアノで賞を取っています」 「え?」 「高校では、大人顔負けの表現力で、審査員全員が貴方しかいないと言っていたぐらい」 「どういうこと?」 珊瑚君の言っていることは、まるで私とは関係ない様な話しとしか思えないんだけど。 「貴方が記憶を忘れているのは、貴方自身がお兄さんを亡くしたショックからかもしれないし、――誰かに操られているからかもしれないと僕は思っています」 窓の外を見上げる。 天気のいい、眩しい日差しを全身で浴びていた珊瑚君の鼻に、ぽたりと滴が落ちる。 まるで雨みたいに。 「貴方は、多分、操られている」 「私が? 誰に?」 脈拍もない会話が、なんだか謎解きみたいで面白い。 このつまらない柵の中、ほんの少しのスパイスみたいな。 「死者か、大切な彼か、どちらかに」 へんてこなことを真剣に悩んじゃうその幼い横顔とか。 見ているだけで退屈しない。
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