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「さっきから大人しく聞いてりゃ、あんた…」
しかしその言葉は目の前で立ち上がる人物に遮られた。
先程の子供だ。
2人の間に位置していたその子供は立ち上がり大刀を背負い直すと、周囲の緊張を気にも留めず、2人の間を通り過ぎる。
「あ?なんらこのガキ。俺様の目の前を素通りらあ?」
目の前を素通りする子供に腹を立てたバンダナ青年が、テーブルから降りて子供の胸ぐらに掴みかかった、その瞬間。
止めようとしたミランの全身をとてつもない殺気が走り抜ける。
その気配に気を取られている間に、バンダナ青年は激しい音と共に床に尻餅を付いていた。
一瞬の出来事にただただ静まり返る酒場には、今の空気に不釣合いな陽気なBGMが流れ、ミランは伸ばした手をそのままに目を丸くして静止している。
先程感じた強烈な殺気も今は全く感じられない。
当の本人も何が起きたのか良く分かっていない様で、起き上がること無く目を見開いていた。
「…大丈夫?お兄さん?」
首を傾げ、丸く大きな澄んだ瞳でバンダナ青年を覗き込むのは先程の子供。
その様子に酒場の客たちは勝手に転んだのかと納得し、ざわつき始めた。
「…え…あ…。」
口籠るバンダナ青年に子供は天使の様な微笑みを向ける。
そして一言…
「…気を付けてね。」
そう言った子供から薄っすら漂うのは先程ミランの全身を走り抜けたモノ。
そして前髪の隙間から覗くのは、先程の表情とは打って変わった鋭い眼光。
しかしそれもつかの間、すぐに笑顔に戻ると扉へと向き直り、その子供は店を後にした。
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