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彼と同道する男。
果心堂は居を奥鎌倉に構えている。
山中のどこかに庵を結んでおり、彼の弟子である一郎太という少年(こちらも吸血の鬼だ)とともに暮らしている。
吸血鬼とはいえ、必ず人の血を吸わねば飢えて死ぬ、というわけではないそうだ。
山の気や、そういった霞的なもので、そこそこ十分、生活は営めるらしい(と、彼が聞いているだけで真実は微妙に異なるのかもしれないが)。
この男、やたらストイックで、齢三百をゆうに超えているらしいが、情に厚く、礼を重んじ、恩義を忘れない。
彼を友として見込んでからは、月に数度は、必ず店に顔を出しにやってくる。
彼の生活を心配し、売上げに貢献に来るわけだ。本当に律儀な男なのである。
実のところ、彼にも店をやる前にしていた仕事と、もらうつもりはなかった養母の遺産で、結構な蓄えがある。
案じてもらう程ではないのだが、友が来てくれるのはただ嬉しく、ありがたくその心遣いを受けている。
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