【 桜 木 】

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実に変わった仕事を、桜木の妹はしている。  霊的な立場から、日本を護るという、それだけ聞くと、何の冗談だろうと思うような仕事だ。  しかし、彼女は由緒正しい神道家の跡取り娘で、しかも極秘事項をさらっと述べれば、さる隠密の国家機関預かりの身なのである。  彼女がそのような仕事に就くことになったのも、十数年前に、彼が、まだ4歳だった彼女をその神道家の当主に預けたからだ。  その時彼は10歳で、彼と妹の間にはまだ一人、絵美子という姉妹がいたが、彼女はいまだ行方不明のままだ。その生死もわからない。  父母はない。 村落まるごと、惨殺されている。父母を殺され、兄妹命からがら逃げた先が、その神道家の屋敷だったのだ。  誰が、何のためにそのような事をしたのか、それはいまだに謎である。ただ、こうして兄妹が再会できたのは、妹の仕事を補佐している守役の尽力が大きい。  その守役の青年が、めざす大河内山荘の茅葺の門をくぐり、長い坂をあがりきったところにある茶席で、緋毛氈の上に座っていたので、桜木は喜んで手を振って声をかけた。 「有坂サン!」   
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