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両手を抹茶茶わんで温めて、紅葉の錦を見上げていた青年は、いつもと変わらぬスーツ姿だ。目立ちすぎず、収まりすぎず、まさに役に見合ったさまながら、あいかわらず趣味良く纏めている。
茶碗を脇へ置いて立ち上がり、丁寧に彼へ頭を下げてきた。
「宮さま。お久しゅうございます」
この青年は、彼の妹の涼を、姫と呼ぶ。
で、彼はその兄という事で、「宮さま」で定着した。
しかし、それも、人の少ない彼の店で呼ばれる分には何の気にもならないが、やはり、このようなところでは、恥ずかしい。
微妙に顔を赤らめる彼に、それと気づいたようで、慌てたように声を低めた。
「……失礼いたしました。迷わずに、お越しになれましたか?」
凄い人出でしたでしょう、と、笑いながら、しかし有坂が微妙に後ろに立つ果心堂を無視している事に気づいて、桜木はシマッタと思う。
そうだった。
有坂の立場からすると、彼のように、果心堂とフランクに付き合うという訳にはゆかないのだ。
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