【 桜 木 】

12/23
前へ
/121ページ
次へ
「有坂さんも、ご一緒に食べて行かれるんでしょう?」  桜木が尋ねたのは、有坂がだいたい常にその反対の心づもりであるからだ。  案の定、イエ、と苦笑交じりに、生真面目な青年は首を横へ振った。 「私はまだまだ仕事中ですし、すぐに戻って今回の復命書を作りはじめませんと、後々手ひどい目にあいますので」  彼に残念そうな顔をされ、逆に少し嬉しげに微笑み返してくる。それが、この男の彼との距離感を表していると言っていいだろう。 「またの機会に改めましてぜひ。しかし、姫がお越しになるまでの間、ここのご案内はいたしますよ。もう、たっぷり三周はいたしました。現地ガイドなみにご案内できる自信がございます」  お任せください、と、有坂は穏やかに目を細めた。 ★★★    
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加