【 桜 木 】

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 今日もそうである。涼が休みをとれる事になったが、戻ってくるのに時間がかかるため、彼の方が、京都へ出てきた。  ここで落ち合い、夕食を食べ、宿に泊まり、明日一日はのんびりして、明後日には彼女の務める国家機関の用意した車に乗り、ともに首都へ戻る。  そしてまた、彼女は仕事に戻り、彼は彼の営む喫茶店へと帰るのだ。 次に会えるのは、おそらくまたひと月ほど開くだろう。  今度は、彼の店兼住居の方で、2,3日は滞在できるかもしれない。  しかしそのような生活の中でも、今の日常に満足だ。少し大げさな表現かもしれないが……命がある限り、少しでも長く穏やかに。  まるで互いにいつこの微妙なバランスが崩れ、どちらかが突然に、死に見舞われることになっても不思議はないと感じているかのうように。  彼と涼は、互いにいる事のできるその一瞬一瞬を愛おしむことで精いっぱいなのだ。
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