【 桜 木 】

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「でも、この人、どこか果心堂さんに似てませんか」  ふと、彼が思いついて言うと、有坂もこのときばかりは、成程と言う風に、果心堂に目を向けた。  果心堂ばかりが、ただ、無表情に肩をすくめる。  そういえば果心堂は、背に、細長い錦の袋を背負っている。 一見それとは判らぬようにではあるが、おそらく愛刀をそこに納めて来ているのだろう。  別に何が起こるというわけでないが、彼の護衛という名前でついてきている限りは、得物がなければすわりが悪いとみえる。  しかし帯刀して公道を歩いていれば、即、銃刀法違反でお縄だ。  吸血鬼も齢三百歳を越るほどとなれば、世に紛れて生きる方法をなにくれとなく自然に身につけるものと見える。 「でも、この隻眼だと、どうちらかといえば、細田室長の顔が浮かびますね。ほら、いかにも悪役というような、性格の悪いこの蛇系の目つきなんか、まさにそっくりですよ。うん」
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