【 桜 木 】

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いつのまにか、有坂が厳しい顔をしている。 そういえば、閉館時間は五時と聞いていた。今は、その時間にほど近い。  そのせいか、もともとそう客に溢れていた訳ではないが、彼らのほかに人の気配がなくなっている。  なんだろう。 桜木にも感じられた。  ……何かが変だ。  見れば、果心堂もいつのまにか、自身の背負っていた錦の袋からいつでも刀をとりだせるように、その頭の紐を解き、左の手に下げている。 「宮さま。先にどうかここをお出下さい」  少し硬い声で彼が言ったので、桜木と果心堂は同じように驚いた顔で有坂を見た。
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