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「残念だわ。でもまだ妙香庵の庭もご覧になってないんでしょう。お帰りはそれを見てからでも、遅くないンじゃない?」
不意に、後ろから声をかけてきた女に、彼らは心臓を射抜かれたような心地で振り返った。
驚いた。
まるで、気配がしなかったからだ。
振り向いたところにいた女は、金色の長い髪を夕暮れの陽に燃やしている。その色は外人のそれとは違う。
なにとは言えない。
しかし明らかに構成要素が違うと感じる『金色』だ。
目が、真紅である。
肌はそれに反して真っ白だ。その左の頬に薄くついた刀傷が目につく。
薄い紅色の着物を着て、その唇から、尖った八重の歯が覗いた。
……最初に正気に戻ったのは、有坂だ。
「人妖ッ、宮さまを早くッ」
有坂が叫ぶよりも早く、女が動いた。
ゴッと風が猛るのと同時、桜木は自分の体が宙へ浮かぶのを感じる。
「宮さまッ」
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