【 桜 木 】

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 女は彼を肩に負い、風のような速さで寝殿造りの大乗閣の前を駆け抜ける。  上り口につくばいのある、細い石段を、女が彼の体を易々と担いで駆け上がっていく。  その速度が速すぎて、彼は息をすることもできない。 彼一人抱えて、女性の腕で、この速さ。  もはや相手が人でないのは明らかだ。  細い階段を上がり切り、女は彼を担いだまま、妙香庵と看板があがる庵に飛び込むと、彼の体をそこの畳の上に叩き付けた。  激しい衝撃があって、彼はただ喘ぐ。  女はすぐには動けない彼の上に柔らかくのしかかってきて、彼の貌を両手で包み込むようにして覗き込んできた。 「あァ。本当に……噂にたがわぬ、綺麗な男だこと」  目を剥いた彼の前で、赤銅のような女の瞳がウットリした風に波立った。
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