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よく聞けばどこか情けなく聞こえる呻きだが、しょうがない。
己をなんのてらいもなく稀代の剣客と自負する彼だが、ただ一つ、どうしても苦手とするものある。
それが「女」であり、彼らの座敷の周りは、いま、まさにその女たちに囲まれているのだ。
それも、10人は下らない。
いずれも、年は二十歳前後だろう。
もう、日もとっぷり暮れ、寒さも増して来たというのに、彼女たちはたいそうな薄着だ。
だが、寒そうな顔一つしていない。
しかし、それよりもっと異様なのは、全員が刃物を持っている、ということだ。
しかも、彼らを狙ってはいない。
全員、己の喉元に刃物の切っ先を向けて、立っている。
縁側に向かう庭に、ほぼ等間隔に立って、ジッと、ただ彼らの動くのを待っているのである……!
場所は大河内山荘内、山頂近くにある、妙香庵。
何故、このような事になったのか。
事の次第は、数時間前に遡る。
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