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「だからオレは王都は好かんというのだ!」
嵐山の駅を降りてまだ、十分も過ぎていないというのに、果心堂のヘソはべきりと音をたてて曲がってしまったようだ。
派手に観光化された川べりの料理屋や屋台。
その前を過ぎ、渡月橋を渡る手前で、大きく腕組みした彼の目は文字通り三角だ。もうどうにも我慢がならぬという具合に、唸るような不満の声をあげた。
時間は黄昏時に近い。
が、全長たかだか百数十メートルの渡月橋は、いまだ、前の人間と数珠つなぎになって、押し揉まれるような恰好でなければ先に進めない。
こんな、長距離無差別オクラハマミキサのような状態で渡られては、確かに渡月橋という、美しい名もすすり泣く。
果心堂が睨む先、山際の川面では、無数のボートが出ている。
有名な保津川下りの、帰着点が、ここなのである。
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