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保津川は、丹波高地の大悲山から流れる大堰川が、亀岡付近で名前を変えたものだ。さらに下流に行くと桂川とまた名前を変え、最終的には淀川に合流する。
それはそれで風情ある光景なのだが、これも、どうもこの男は気に食わぬようだ。
とうとう不機嫌そうに目を逸らしてしまった。
桜木は群衆の中にいて、たっぷり首二つ分は抜きんでた長身の果心堂を見上げ、頭を掻く。
「すみませんねぇ。今回も、付き合わせてしまいまして」
人に押されて進むような恰好のまま、果心堂は眉を寄せた。
「いや。悪いのは四朗ではなかろう。責めるべきは、この場所を待合せに指定する天魔の無神経だ」
あらら。
「涼もお仕事ですもの。選べるわけではないですし」
仲介の言葉を入れるのだが、果心堂は聞こえないふりである。
というか、前後を女性に囲まれて、どうにかして彼女らと体を触れ合わせずに渡月橋を渡りきることにいま、全身全霊をかけているような状態と見て取れた。
季節が秋で良かった。
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