第1章

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「人魚の?アンデルセン童話なら知ってるわよ」 まさか、そんな伝説の魚の話をケイタがしようとは思わなかった。 「それは、綺麗な物語の″人魚姫″だろ?」 そして、私の許可を得ることもなく、 布団にゴロッと横になり、再びスマホの画面を見せる。 「…なに?…人魚の画像なんて作り物でしょ?」 仕方なく、自分も少し体勢を崩してその画面を覗きこむと、 「…………ひ」 な、 なにこれ、 「人魚って、妖怪として考えられたりホラー映画の悪役だったりするんだぜ? アジアじゃただの人面魚みたいな画像出てくるし」 ケイタがスクロールする指先から、幼少の頃からイメージしたものとは程遠い人魚の画像がたくさん出てきた。 「なんか、軽くショック……」 イギリスやヨーロッパの伝説では、人魚は全て女で、美しい容姿と美声で人々を虜にするも、気に入った船乗りの男やその船を海中に引き込むために、嵐を起こしたりするらしい。 「凛々子みたいだよな」 その、妖艶なヨーロッパの人魚の画像を見て、ケイタが楽しそうに言う。 「凛々子は男を海底に引きずり込んだりしないわよ」 「家には引っ張りこむじゃねーか」 「………………」 いつの間にか枕を半分ずつ敷いて、ひとつの画面を見つめていた二人。 私の右には再び睡魔と、 左にはケイタが、静かに呼吸音だけを発して、 人魚の話を途中折々に混ぜ混んでいく。 「ギリシャ神話じゃ、ノアの方舟に乗れなかった悪者だし、 人間は、昔から海や魚に恐怖心を抱いていたのかな?って思うよな」
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