第1章

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「そのザンの地震予測を信じなかった村の者と信じた村の者とじゃ、被害者が圧倒的に違ったらしい」 枕を半分こして、心地よい低音で昔話を教えてくれるケイタの横顔…… 意外に整っていて、 偏見や先入観を取り除いたら、かなりのイケメンに見えるんじゃないかと思った。 「その津波をザンが引き起こしたとしないところが、日本人的な物語よね、 恩を忘れない人魚に、鶴、亀、お地蔵、雪女……」 何だか急に恥ずかしくなって その横顔から目をそらすように、天井を見た。 「ザン……人魚は、本当はいないと思ってんの?」 そして、 また、意外な発言をした山本ケイタを再び、驚いたように見る私。 「当たり前じゃない……そもそも、人魚のモデルになったのは、沖縄にもいるジュゴンだと言われてるでしょ?」 「こんだけ世界で人魚の伝説が溢れてるんだぜ?それもかなり昔から。俺はきっといると思うよ。 写真を捏造したネッシーと違って、姿も具体的に共通してるし」 「………昔話………神話に出てくるからじゃないの?」 呆れた……というより、 まるで、子供みたいだと思って。 「昔話じゃなくても、遺伝子操作とか、今でこそそんな種の生き物が発生しててもよくねー?」 「………………」 そんなあどけない瞳でこちらを振り返らないでくれる? 「バカにしてんだろ?」 ケイタの長めの髪が、その口元に張り付いていて、 そっと手を伸ばして、それを後ろに移動させてやる。 「してないよ。バカさは、私がナンバーワンだと思ってるし」 「だな」 「は?」 「こんな風に簡単に男、部屋に入れちゃってるし」 「えっ、な、な」 髪を退かした手を、いきなりケイタに掴まれて、 完全に睡魔が消えてしまった瞬間だった。 「隙ありすぎて、バカな女だと思う」 魚の話ばかりして、あどけなく見えたケイタの瞳が、 急に大人の男の色に変わったと思った。 「一緒に海の底に落ちようぜ」
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