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「そのザンの地震予測を信じなかった村の者と信じた村の者とじゃ、被害者が圧倒的に違ったらしい」
枕を半分こして、心地よい低音で昔話を教えてくれるケイタの横顔……
意外に整っていて、
偏見や先入観を取り除いたら、かなりのイケメンに見えるんじゃないかと思った。
「その津波をザンが引き起こしたとしないところが、日本人的な物語よね、
恩を忘れない人魚に、鶴、亀、お地蔵、雪女……」
何だか急に恥ずかしくなって
その横顔から目をそらすように、天井を見た。
「ザン……人魚は、本当はいないと思ってんの?」
そして、
また、意外な発言をした山本ケイタを再び、驚いたように見る私。
「当たり前じゃない……そもそも、人魚のモデルになったのは、沖縄にもいるジュゴンだと言われてるでしょ?」
「こんだけ世界で人魚の伝説が溢れてるんだぜ?それもかなり昔から。俺はきっといると思うよ。
写真を捏造したネッシーと違って、姿も具体的に共通してるし」
「………昔話………神話に出てくるからじゃないの?」
呆れた……というより、
まるで、子供みたいだと思って。
「昔話じゃなくても、遺伝子操作とか、今でこそそんな種の生き物が発生しててもよくねー?」
「………………」
そんなあどけない瞳でこちらを振り返らないでくれる?
「バカにしてんだろ?」
ケイタの長めの髪が、その口元に張り付いていて、
そっと手を伸ばして、それを後ろに移動させてやる。
「してないよ。バカさは、私がナンバーワンだと思ってるし」
「だな」
「は?」
「こんな風に簡単に男、部屋に入れちゃってるし」
「えっ、な、な」
髪を退かした手を、いきなりケイタに掴まれて、
完全に睡魔が消えてしまった瞬間だった。
「隙ありすぎて、バカな女だと思う」
魚の話ばかりして、あどけなく見えたケイタの瞳が、
急に大人の男の色に変わったと思った。
「一緒に海の底に落ちようぜ」
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