第1章

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セカイは終わりました。はい、おしまい。 これで物語が終わるのならどれだけいいだろう。まぁ、終わりましたと言っても第三次戦争が起こって核戦争が起こったとか、天変地異で人類が死んだとか、奇病で何万人も自殺したとか、そういった劇的な物語があったわけじゃない。 ただ、この地球に広がる海の水位が上がり、大陸のほとんどが沈み、人類のほとんどが水死しただけのことだ。なすすべもなかったという、それこそあっという間の出来事だったからだ。抵抗する余裕もなく、大陸は海に沈んだ。ただ、それだけのことなのだ。 それだけなのに。ここかつてはニホンと呼ばれていた国の頭の部分、ホッカイドウだけが沈むことなく残った。なぜ、残ったのかははっきりしていない。地球儀をくるくると回してそこに一本のダーツを投げて、たまたまそこにニホンが当たって、気まぐれで残されたなんて思うのなら面白いけれど、そうなるとダーツを投げた誰かさんは地球を水没させた犯人ってことになるわけだけれど、誰なんだろうね。うーむ、神様? とりとめのないことを考えながら小舟をキーコキーコと漕ぐ。木製の船がプカプカと揺れる。今日は風も吹かないから漕ぎやすい。もしも強風が吹こうものなら簡単に煽られてしまうだろう。 文明は崩壊し、人類が長年をかけて築き上げてきた物のほとんどは役立たずの物となり果てて、生活は困窮を極める。夜は真っ黒になり、灯りは蝋燭を頼らなければならない。冬になれば寒い寒いと毛布を何枚も着込んで眠りに落ちる。幸いだったのは人を襲うような生物がいなかったことだ。でも、一定の人達は今の生活がいいと言う人がいる。かなり苦労するし、贅沢はできない。食べ物だって自給自足、夏になれば猛暑にうだる。 けれど、セカイは平和だった。 残ったのがホッカイドウという島だけで人類の数が大きく減ってしまって国境もくそもなく、お互い助け合わなければならないとしてもセカイは平和だった。 「まぁ、そう思わなければ絶望なんだろーけれどさー」 キーコキーコと漕ぎながらある地点で止める。そこには大きな柱がノッポリと頭が出ており、おそらく水没したさいの生き残りだろうと私は思う。その取っ手に船に繋いだ綱を結びつけ、グッグッと引っ張りしっかり止める。 そして私は空気を勢いよく吸い込むと船から海底へと潜った。迷宮の海底にゆっくりと沈み、ゴーグル越しにうつるかつてのセカイ
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