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なにもかもが滅び、沈んで魚の住処になってしまったセカイがそこにある。手足を動かして深く、さらに深く沈んでいく。頭がハンマーで叩かれたようにガンガンと痛み、呼吸が苦しくて口の隙間から泡があふれた。あと、どれくらい潜ればあのセカイに触れられるだろう?
私は、かつてのセカイを知らない。大陸が海に沈んだことも、そのせいで大勢の人たちが死んでしまったことも聞いただけだ。多くの水死体が海に浮かび、ヒドい腐臭が漂って魚の餌になったことも聞いているだけ、私が特別とかそういうわけじゃない。後から生まれた子供は私も含めて多くはないけれど、いるのだ。そして大人達はかつてのセカイを語る。
まるで、語られない死者達の無念を後世に残そうとするように彼らは語るのだ。もう終わってしまったセカイのことを、いくら聞いたところで元通りにはならない。死んだ人も、沈んだ大陸も、滅びた文明も元通りにはならない。それは人の記憶、思い出となっていくだけだ。過去には価値はない。未来にこそ価値がある。たぶん、大人達にもそのことがわかっている。わかったうえで語るのだ。彼らには未来がない。なぜなら私達よりも早くに病に倒れ、老いに負け、そして死んでいく。息が苦しくなり、水面に顔を出して思いっきり息を吸い込み、ゴーグルを外した。びしょ濡れの髪の毛が張り付いてうっとうしいけれど、水面に両手を投げ出してプカプカと浮く。
「でも、もし、もう一度、大陸が海に沈んでしまったら私達にも未来はないよなぁー」
けっして言ってはいけないことを、大きく広がる空に向かって呟いた。一度目があれば二度目だってあるかもしれない。
誰も言わないけれど、言ってはいけないことだけれど、私は言った。
セカイは平和になった。いろんな物を失って、壊して、死んでいって、平和になった。、たとえそれが仮初めの平和だとしても……。
「やっぱり船をつくべきなのかも。あんな小舟じゃなくて、もっと大きな帆船を」
それでも私達は抗うのだろう。
「名前はなにがいいかなぁーんー、ノア? ノアの箱船?」
それよくないと私は一人、はしゃいだのだった。いつか滅ぶセカイなら未来をつかみ取るのも悪くない。
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