二 定め

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知らせを聞き、布都(ふつ)蹈鞴衆(たたらしゅう)が屋敷の東から村を見おろした。  鉄穴衆(かんなしゅう)が広場の中ほどで下馬した。村人たちを呼び集め、馬から薦包(こもづつ)みを降ろして(すき)を取りだしている。鋤は遠目にもわかる、円筒を縦に半割りした形の丸鋤(まるすき)だった。 「村上(むらが)っ。あれは丸鋤だっ」  村上は(さと)や集団をまとめ、人々を良き方向へ導く指導者である。村上の次の立場が村下(むらげ)である。村上も村下も支配者ではない。  布都は爾多郷(ぬたのさと)の村上であり、(さと)の蹈鞴衆の村上である。そして、出雲に暮らす蹈鞴衆すべての総村上でもある。 「遠呂智(おろち)め!丸鋤の考案を盗み、爾多郷まで農具を商う気だっ。許せぬっ」  布都斯(ふつし)は歯を噛みしめた。鉄穴衆を見る布都斯の顎に筋が浮き、握りしめた拳の中で爪が手の平に食いこんだ。    一昨年の春。  布都の指示で、布都斯は乾那有(かんだある)の息子・下春(したはる)とともに、(いね)の父であり仁多郷(にたのさと)村上(むらが)を務める櫛成在(くしなある)に、注文されていた新型の丸鋤(まるすき)を三十三丁とどけた。蹈鞴衆の四戸を除く、仁多郷の各戸に一丁ずつである。  櫛成在が暮らす仁多郷の横田村(よこたむら)は爾多郷から十四里、西利太(せりた)の遠呂智の(やかた)から十二里の道のりだが、商いのためなら遠呂智はどこへでも行く。仁多郷の人々を脅して丸鋤を手に入れ、それをまねたのは明らかだった。
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