78人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
知らせを聞き、布都と蹈鞴衆が屋敷の東から村を見おろした。
鉄穴衆が広場の中ほどで下馬した。村人たちを呼び集め、馬から薦包みを降ろして鋤を取りだしている。鋤は遠目にもわかる、円筒を縦に半割りした形の丸鋤だった。
「村上っ。あれは丸鋤だっ」
村上は郷や集団をまとめ、人々を良き方向へ導く指導者である。村上の次の立場が村下である。村上も村下も支配者ではない。
布都は爾多郷の村上であり、郷の蹈鞴衆の村上である。そして、出雲に暮らす蹈鞴衆すべての総村上でもある。
「遠呂智め!丸鋤の考案を盗み、爾多郷まで農具を商う気だっ。許せぬっ」
布都斯は歯を噛みしめた。鉄穴衆を見る布都斯の顎に筋が浮き、握りしめた拳の中で爪が手の平に食いこんだ。
一昨年の春。
布都の指示で、布都斯は乾那有の息子・下春とともに、稲の父であり仁多郷の村上を務める櫛成在に、注文されていた新型の丸鋤を三十三丁とどけた。蹈鞴衆の四戸を除く、仁多郷の各戸に一丁ずつである。
櫛成在が暮らす仁多郷の横田村は爾多郷から十四里、西利太の遠呂智の館から十二里の道のりだが、商いのためなら遠呂智はどこへでも行く。仁多郷の人々を脅して丸鋤を手に入れ、それをまねたのは明らかだった。
最初のコメントを投稿しよう!