二 定め

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 鉄穴衆(かんなしゅう)の騎馬をひきいて、遠呂智(おろち)の騎馬が屋敷に駆けこんだ。  「布都殿(ふつどの)。もう一度、西利太(せりた)に来て、鍛冶の指導をしてくれぬか。布都殿が教えてくれたように馬具と農具を作っているが、良い物を作れぬ。もっとじょうぶで長持ちする物を作りたいのじゃ」  遠呂智は鉄穴衆の頭目にすぎず、村上ではない。その遠呂智が、恩ある布都を前にして騎乗したままである。 「お前は(わし)との誓約(うけい)を忘れたのか・・・。出雲のみならず石見(いわみ)伯岐(ほうき)(さと)におしつけた農具すべてを持ち帰り、見返りを返すのだ。  今後は先祖(うじがみ)の定めを守れ」  笑うように目を細め、布都は穏やかな言葉に強い思いをこめた。  布都の言霊(ことだま)と強い生霊(いきりょう)をあび、遠呂智の馬が興奮して前脚を蹴たてた。それを合図に鉄穴衆(かんなしゅう)がいっせいに剣を抜き、馬の脇腹を(あぶみ)で蹴った。 「よさぬかっ」  布都が鋭く一喝した。  七騎の鉄穴衆が手綱を引いた。(くつわ)を返して遠呂智の背後へ馬をもどしたが、先頭の一騎が剣を右横に構えたまま馬を突進させた。  馬が布都の横を駆けると、馬上の鉄穴衆は布都の首めがけ、剣を力まかせに振った。  布都は瞬時に剣を抜き、襲いかかる剣を叩き落すように切った。  がっ、と音をたて、鉄穴衆の剣が(きっさき)から砕け散った。  鉄穴衆はあわてて手綱を引いた。馬の進路を変えようとしている。 「捕らえろっ」  叫びながら布都斯(ふつし)が馬の轡に跳びついた。馬は布都斯を中心に孤を描いて向きを変えている。  騎馬に蹈鞴衆(たたらしゅう)が襲いかかった。  馬上の鉄穴衆は剣を振りまわしたが、折れた剣は蹈鞴衆にとどかない。鐙にかけた両足をつかまれ、鞍からひき降ろされて捕らえられてしまった。
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