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「馬鹿者めっ。よけいなことをするなっ」
「へい・・・」
捕らえられた鉄穴衆に罵声をあびせ、遠呂智は、
「布都殿。すまぬことをした。このように言っておるゆえ、許してくだされ・・・」
と、背後の鉄穴衆の目もはばからず、太った胸に顎を沈めて布都に深々と頭をたれた。
「放してやれ」
布都の一言で蹈鞴衆が鉄穴衆を開放した。
鉄穴衆はすぐさま馬に飛び乗り、遠呂智の背後へ駆けた。
騎馬がもどると、遠呂智は、鉄穴衆の数で布都を脅そう、と思い、顔をあげた。どこを見るのかわからぬ細い目を布都にむけ、口から唾を跳ばしながら、
「・・・西利太には、このような荒くれが百人もおる・・・」
と言いながら、だが、剣を扱えぬ鉄穴衆では、蹈鞴衆に勝てぬやも知れぬ、と気づき、
「・・・なのに、あ奴の剣を見てのとおり、じょうぶで長持ちする農具すら打てぬのじゃ。二度と爾多に農具を持ちこまぬゆえ、もう一度、鍛冶の技を教えてくだされ」
と、太った胸に顎を沈め、ふたたび布都に深々と頭をたれた。
布都斯は遠呂智が放つ生霊から、鉄穴衆がすでに大量の鋤と鍬を打ったのを知った。
遠呂智の心を読むと、布都斯の心に黒い影が浮かび、鋭い頭痛に襲われた。
『遠呂智は何かに憑依かれている。己のみが鉄を支配できる、と心を操られている。父は遠呂智から何を読みとったのか・・・』
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