二 定め

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「馬鹿者めっ。よけいなことをするなっ」 「へい・・・」  捕らえられた鉄穴衆(かんなしゅう)に罵声をあびせ、遠呂智(おろち)は、 「布都殿(ふつどの)。すまぬことをした。このように言っておるゆえ、許してくだされ・・・」  と、背後の鉄穴衆の目もはばからず、太った胸に顎を沈めて布都に深々と頭をたれた。 「放してやれ」  布都の一言で蹈鞴衆(たたらしゅう)が鉄穴衆を開放した。  鉄穴衆はすぐさま馬に飛び乗り、遠呂智の背後へ駆けた。  騎馬がもどると、遠呂智は、鉄穴衆の数で布都を脅そう、と思い、顔をあげた。どこを見るのかわからぬ細い目を布都にむけ、口から唾を跳ばしながら、 「・・・西利太(せりた)には、このような荒くれが百人もおる・・・」 と言いながら、だが、剣を扱えぬ鉄穴衆では、蹈鞴衆(たたらしゅう)に勝てぬやも知れぬ、と気づき、 「・・・なのに、あ奴の剣を見てのとおり、じょうぶで長持ちする農具すら打てぬのじゃ。二度と爾多(ぬた)に農具を持ちこまぬゆえ、もう一度、鍛冶の(わざ)を教えてくだされ」  と、太った胸に顎を沈め、ふたたび布都に深々と頭をたれた。  布都斯(ふつし)は遠呂智が放つ生霊(いきりょう)から、鉄穴衆がすでに大量の(すき)(くわ)を打ったのを知った。  遠呂智の心を読むと、布都斯の心に黒い影が浮かび、鋭い頭痛に襲われた。 『遠呂智は何かに憑依(とりつ)かれている。己のみが(くろがね)を支配できる、と心を操られている。父は遠呂智から何を読みとったのか・・・』
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