二 定め

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布都(ふつ)は、遠呂智(おろち)憑依(とりつ)いた得体の知れぬものを見極めていた。 『やはり、遠呂智は(くろがね)を支配する欲を魔に変えた。このまま遠呂智を討てば、魔を現世(うつしよ)に解き放つ・・・』  遠呂智に悟られぬよう、布都は遠呂智に憑依いたものへの思いを心の隅へ追いやった。そのため、遠呂智だけでなく布都斯(ふつし)にも、布都の思いは読めなかった。 「仁多(にた)村上(むらが)木次(きすき)の村上も、(わし)らに農具を注文してくる。それは今後も変わらぬ」  布都は遠呂智に言った。 「仁多郷(にたのさと)から爾多郷(ぬたのさと)まで十四里もある。(さと)の衆は、爾多(ぬた)まで頼みに行くより、郷で農具を打つほうが楽だ、と言っておる」 「郷には(わし)らゆかりの蹈鞴衆がおる。お前の野鍛治は必要ない」 「もっと多くの農具を持たせ、穀物の収穫を、増やすがよかろう」  肥満した腹を突きだすように、馬上の遠呂智が反り返った。 「お前も、現世(うつしよ)の成り立ちを知っておるではないか。必要なき物を作り、現世(うつしよ)の釣り合いを崩してはならぬっ」  布都斯は、布都が遠呂智の背後にむかって、何のために生業(なりわい)が決まっているのか思いだすよう、強い生霊(いきりょう)を飛ばしたのを感じた。 「儂らに、砂鉄と鉱石(いし)だけを商っていろ、と言うのか」  遠呂智が馬上から布都を見すえた。 「お前は儂との誓約(うけい)を犯した。今後、鉄穴衆の農具の商いを禁ずる。本来の生業(なりわい)だけをしろ」  布都は穏やかにそう言った。
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