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布都は、遠呂智に憑依いた得体の知れぬものを見極めていた。
『やはり、遠呂智は鉄を支配する欲を魔に変えた。このまま遠呂智を討てば、魔を現世に解き放つ・・・』
遠呂智に悟られぬよう、布都は遠呂智に憑依いたものへの思いを心の隅へ追いやった。そのため、遠呂智だけでなく布都斯にも、布都の思いは読めなかった。
「仁多の村上も木次の村上も、儂らに農具を注文してくる。それは今後も変わらぬ」
布都は遠呂智に言った。
「仁多郷から爾多郷まで十四里もある。郷の衆は、爾多まで頼みに行くより、郷で農具を打つほうが楽だ、と言っておる」
「郷には儂らゆかりの蹈鞴衆がおる。お前の野鍛治は必要ない」
「もっと多くの農具を持たせ、穀物の収穫を、増やすがよかろう」
肥満した腹を突きだすように、馬上の遠呂智が反り返った。
「お前も、現世の成り立ちを知っておるではないか。必要なき物を作り、現世の釣り合いを崩してはならぬっ」
布都斯は、布都が遠呂智の背後にむかって、何のために生業が決まっているのか思いだすよう、強い生霊を飛ばしたのを感じた。
「儂らに、砂鉄と鉱石だけを商っていろ、と言うのか」
遠呂智が馬上から布都を見すえた。
「お前は儂との誓約を犯した。今後、鉄穴衆の農具の商いを禁ずる。本来の生業だけをしろ」
布都は穏やかにそう言った。
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