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一か月ほど前。
大足春と村人たちは、簸乃川を東へ渡った山あいに小屋を造った。山の傾斜地の窪みに丸太を渡し、柴で屋根の骨組みを造り、その上に茅を葺いた簡素な小屋である。窪みが小屋になっているのを気づかれぬよう、屋根には枯れ草や枯れ葉を乗せてある。屋根の上端が接する傾斜地に溝が掘ってあり、傾斜地に降った雨は溝に流れて、小屋に流れこまない。小屋の近くに湧き水があり、狩りや休息をするのにうってつけの所だった。
「とおちゃんはどうするのっ・・・」
「皆に知らせて、食い物を隠す。はやく行けっ」
木次郷の村上は、簸乃川にそった街道を南東の上流へ二里行った、木次村に暮らしている。だが、村の道を南東へ進めば鉄穴衆の騎馬と鉢合わせする。大足春の家は村の道の東側にあり、田畑を突っ切れば街道へ出られる。
春来は大足春にうなずき、田畑へ走った。
大足春は、春来が田畑まで行ったら、家に入ろう、と思いながら、家の入口に立って叫んだ。
「かんなしゅうだっ。鉄穴衆が来たぞっ。鉄穴衆だっ」
戸数十四戸の加茂村は、大声をあげれば、どの家からも聞こえる。
声を聞きつけて家々の板戸が上がった。村人たちが一瞬顔をのぞかせ、板戸はすぐ下がった。物がぶつかる音と女子供の悲鳴が家々から聞こえる。
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