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現われた騎馬は九騎だった。背後に薦包みを積んだ馬が二頭いて、荷鞍だけの馬が十頭いる。
春来が畑から田圃へ移動した。
息子を見とどけ、大足春が家に入ろうとした、その時、鉄穴衆の先頭から一騎が抜け駆けした。和仁である。和仁は馬を駆りながら手綱を左手に持ちかえ、右手で腰の剣を抜いた。
「やめろおっ。やめてくれっ」
大足春の声が悲鳴に変わった。
田圃の畦道で春来の背後に騎馬が迫った。和仁は剣を振りあげ、追い抜きざまに春来めがけて剣を振りおろした。春来は声も出さずに突っ伏し、三尺ほど下の田圃へ頭から転落していった。
「なんてこった・・・。春来が和仁に殺められちまった・・・」
大足春の膝から力が抜けた。目の前が真っ暗になって倒れそうになったが、必死に入口の柱にすがって悲しみに耐え、家の中へ手を伸ばした。家を覆う茅束に、蹈鞴衆の打った鋼物の鋤が立てかけてあった。
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