一 略奪

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 和仁(わに)の馬が停止した。身動きしない春来(はるく)を確認すると、和仁は大足春(おたある)の家にむかって馬を走らせてきた。 「爺っちゃんっ。山の小屋へ逃げろっ。逃げねえと、(あや)められるぞっ。(あわ)なんかいいっ。早く逃げろっ」  大足春が叫んだ。家には大足春の老いた両親と、赤ん坊を抱いた妻がいる。老いた両親は穀物を隠すのをやめ、家の裏手を覆う茅束(かやたば)に人が通れる穴を開けた。 「あんたっ。あんたはどうするんだいっ」  妻は、泣き叫ぶ赤ん坊をあるだけの(きぬ)にくるみ、背負子(しょいこ)に入れた。赤ん坊が胸の位置にくるよう、背負子の肩帯に腕を通し、はずれぬように肩身(かたみ)で肩帯をきつく結わえた。 「早く行けっ。春来が殺められちまった。おら、和仁を許さねえっ。早く山の小屋へ逃げろっ。おらも、あとから行くっ」 「はるくが・・・」  息子の死を知らされ、妻は茅束に手をかけたまま呆然としている。 「なにしてるっ。早く行けっ」  妻は大足春に促され、老いた父母が待つ家の裏へ茅の穴を抜けた。  大足春は(すき)を握った手に力をこめた。
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