一 略奪

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「あの家からだっ。かかれっ」  馬を走らせながら、和仁(わに)大足春(おたある)の家に剣をむけた。  村の家々は丸太と柴の骨組みに(かや)()いた、簡素な造りである。屋根の正面と裏手に煙抜きがあり、それぞれの上部に五本の丸太を藤蔓(ふじづる)で結束した、家の(かなめ)がある。  八騎が家に近づいた。先頭の鉄穴衆(かんなしゅう)が鞍から腰を浮かせ、(あぶみ)に立って剣を振りあげた。そのまま速度をあげ、大足春の前に馬を走らせてきた。駆け抜けざまに丸太の藤蔓を断ち切るつもりだ。  騎馬が大足春の前に迫った。大足春は入口に隠し持っている(すき)で、駆けてきた馬の前脚を力まかせに()いだ。  骨が折れる鈍い音が響き、凄まじい(いなな)きをあげて、馬が首から地面へ雪崩れ落ちた。騎手の鉄穴衆は大きく前方へ投げだされたが、運よく一回転して、ゆっくり尻持ちするように足から尻へと地面に落ちた。 「このやろうっ。俺の馬をつぶしやがってっ」  怒りで顔を真っ赤にして鉄穴衆が立ちあがった。ふりむきざまに剣を大きく振り、大足春の腹に切りつけた。  だが、大足春は身構えていた。腹へ走る剣より一瞬早く大足春の鋤が風を切り、鈍い音をたてて銑物(ずくもの)の兜が砕け散った。  立ちあがりざまの横っ面を鋤で打たれ、鉄穴衆はのけぞり、そのまま気を失った。 「春来(はるく)(あや)めやがって、許さねえっ」  倒れた鉄穴衆を睨んだまま、大足春は大きく息を吐いた。  他の鉄穴衆たちは、仲間が大足春を打ちのめしたら、馬をつぶされた落ち度をからかってやろう、と思ってにたにた笑いながら見ていたが、仲間が大足春に打ちのめされると、血相を変えた。騎馬の包囲網をいっきに狭め、家の側面へ大足春を追いつめて、いっせいに罵声をあびせはじめた。
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