十 西利太の村下

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 知らせを聞き、和仁(わに)南廂(みなみひさし)簀子(すのこ)へ出た。  広場に布都斯(ふつし)下春(したはる)たちが現われると、寝殿(しんでん)にいる百人ほどの鉄穴衆(かんなしゅう)が剣を抜いた。 「皆、剣を納めろっ。争ってはならぬっ」  和仁は鉄穴衆を一喝した。  鉄穴衆は、布都斯と下春が蹈鞴衆(たたらしゅう)をひきいて攻めてきた、と思い、剣を納める者は誰もいない。 「はやく、剣を納めろっ」  南廂の近くで、布都斯と下春の馬が歩みを止めた。 「(いくさ)に来たのではないっ。あらためて言うっ。皆、よく、聞けっ。 今後は我らに従い、定めどおり生業(なりわい)を成せっ」  そう言うと、布都斯はさりげなく(くつわ)を返した。  和仁は、布都斯の態度は見せかけにすぎぬ、と感じた。 『布都斯は引き止められるのを望んでいる。今後のことを交渉する気だ。この場は思い通りにさせた方が良い』  和仁は急いで階段を広場へ駆け降りた。布都斯が馬の脇腹を鐙で蹴る前に、 「待ってくれっ。布都斯殿と下春殿に話があるっ。今宵にも会いに行くつもりだった。  皆、剣を納めろっ。三人を横へ動かせっ、上座にむかって座れっ」 ふたたび鉄穴衆を一喝して指示した。  鉄穴衆が剣を納めた。上座に寝かされた遠呂智(おろち)荒海(あらうみ)予矛珠(よむじゅ)の遺体を移動し、上座にむかって座った。 「布都斯殿。下春殿。上がってくだされ」  素足で広場に立ったまま、和仁は丁重に言って、遠呂智に仕えるように深々とお辞儀した。 「皆は騎乗したまま、ここで待て」 「布都斯様。我らも・・・」 「心配いりません。何も起こらないから、安心してください」  下春は、鉄穴衆に指示する和仁に、敵意を感じなかった。 「下春様。そうは言っても・・・」  二人の身を案ずる蹈鞴衆を広場に残し、布都斯と下春は下馬した。
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