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知らせを聞き、和仁は南廂の簀子へ出た。
広場に布都斯と下春たちが現われると、寝殿にいる百人ほどの鉄穴衆が剣を抜いた。
「皆、剣を納めろっ。争ってはならぬっ」
和仁は鉄穴衆を一喝した。
鉄穴衆は、布都斯と下春が蹈鞴衆をひきいて攻めてきた、と思い、剣を納める者は誰もいない。
「はやく、剣を納めろっ」
南廂の近くで、布都斯と下春の馬が歩みを止めた。
「戦に来たのではないっ。あらためて言うっ。皆、よく、聞けっ。
今後は我らに従い、定めどおり生業を成せっ」
そう言うと、布都斯はさりげなく轡を返した。
和仁は、布都斯の態度は見せかけにすぎぬ、と感じた。
『布都斯は引き止められるのを望んでいる。今後のことを交渉する気だ。この場は思い通りにさせた方が良い』
和仁は急いで階段を広場へ駆け降りた。布都斯が馬の脇腹を鐙で蹴る前に、
「待ってくれっ。布都斯殿と下春殿に話があるっ。今宵にも会いに行くつもりだった。
皆、剣を納めろっ。三人を横へ動かせっ、上座にむかって座れっ」
ふたたび鉄穴衆を一喝して指示した。
鉄穴衆が剣を納めた。上座に寝かされた遠呂智と荒海、予矛珠の遺体を移動し、上座にむかって座った。
「布都斯殿。下春殿。上がってくだされ」
素足で広場に立ったまま、和仁は丁重に言って、遠呂智に仕えるように深々とお辞儀した。
「皆は騎乗したまま、ここで待て」
「布都斯様。我らも・・・」
「心配いりません。何も起こらないから、安心してください」
下春は、鉄穴衆に指示する和仁に、敵意を感じなかった。
「下春様。そうは言っても・・・」
二人の身を案ずる蹈鞴衆を広場に残し、布都斯と下春は下馬した。
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