十 西利太の村下

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 布都斯(ふつし)下春(したはる)寝殿(しんでん)の上座に座り、和仁(わに)は居並ぶ鉄穴衆(かんなしゅう)とともに二人に対座した。寝殿の東側には、遠呂智(おろち)予矛珠(よむじゅ)荒海(あらうみ)の遺体が寝かされている。  怪訝な顔をしている布都斯と下春に、和仁は言った。 「荒海は鉄穴衆を駆りたてて、布都斯殿を討とうとしたゆえ、俺が切り捨てた・・・。  木次(きすき)(やかた)で交わした言葉に嘘はない。  我らは皆、蹈鞴衆(たたらしゅう)に従い、定めに従う・・・。  だが、一つだけ頼みがある。西利太(せりた)を村として扱ってほしいのだ」 「木次郷(きすきのさと)に組み入れろ、と言うのかっ」  驚いたように布都斯が言った。  和仁は、布都斯が和仁の真意を確かめるため、知らぬふりをしているのを感じた。まるで遠呂智(おろち)のようだ、と思いながら、背後の鉄穴衆を示し、 「そうだ。遠呂智のものだった西利太は、鉄穴衆一人一人のものになった。村に変わったのだ」  と西利太の変化を強調した。  木次郷は木次村(きすきむら)加茂村(かもむら)大東村(だいとうむら)から成っている。予矛珠が戒められた今、木次郷の村上は布都斯と下春である。
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